記憶の記録

旅の記憶を記録しています。

4.沖縄の食堂②(沖縄・糸満)

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糸満にあるセンター食堂 少し閉鎖的で入りづらい

 もう一軒印象深かった沖縄の食堂の話をしようと思う。

 

 2019年5月、ひめゆりの塔に行こうと思いレンタカーを探したが、異例の10連休のためか空いている車が1日3万円というとんでもない値段だった。原付も探してみたが空きがない。バスを探すと、那覇バスターミナルから糸満バスターミナル経由でひめゆりの塔まで行けるらしい。迷わずにバスに乗った。

 

 糸満バスターミナルから南へ行くバスは本数が少なかった。1時間と少し乗り換えに時間があったため、朝食を食べにバスターミナルから歩いて行ける距離にある食堂に向かった。店名はセンター食堂。今はバスターミナルから少し離れているが、当時はすぐ近くにあったようである。

 

 9時半頃、食堂というにはなかなか閉鎖的で入りづらい入口の前に着いた。扉を開くと客は誰もいなかった。おばーというにはまだ若いお母さんくらいの店員(以下、おかー)が1人で切り盛りしていた。僕はカウンター席に座った。何にしましょうかと問われ、壁に掛かった短冊形のメニューの中からカツ丼を頼んでみた。

 

 非常に清潔な店内だった。大きなカウンターの向こうには調理場があり、おかーがテキパキと料理をする姿が見渡せる。ぼんやりとおかーを眺めていたところ、驚きの光景が目に入った。おかーが大量のキャベツやニンジンなどの野菜をフライパンに入れたのである。客は僕1人、カツ丼を頼んだはずだが…野菜炒めとメニューを間違えたのだろうか…しかし、野菜を炒め終わると大きなカツを揚げ始めた。やはりカツ丼なのである。サイドメニューに野菜炒めが付くのだろうか。あまり気にしないことにした。

 

 おかーが料理をしている間に店内を見回した。壁には短冊形のメニューが掲げられ、みそ汁、ちゃんぽん、たまごポークと沖縄らしいメニューが並び、その下には禁煙、禁酒の文字が…ん、禁酒?一瞬どういうことかわからなかった。ここは食堂なのだが…少し考えてようやくわかった。近所のウチナーンチュの男はここに酒を持ち込むのだろう。そして定食を食べながらだらだらと酒盛りをするようである。困り果てたおかーはこの「禁酒」という文字を貼ったのだ。なんとも沖縄らしい話である。

 

 考えを巡らしているうちに、カツが揚がった。そろそろ出来上がりだなと調理場を眺めていると、またしても驚きの光景が目に映った。ご飯を盛り、一口大に切ったカツをのせた。ここまでは普通のカツ丼である。そしてその上に、大量の野菜炒めをぶっかけたのである。お待たせしましたと出されたカツ丼は、野菜炒めでカツがほとんど隠れており、カツ丼というより野菜炒め丼である。見た目のインパクトは凄いが、とりあえず食べてみることにした。

 

 野菜炒めはウスターソースの濃いめの味付けで、なかなか美味しい。しかし、カツ丼なのにカツまでなかなかたどり着かない。カツにたどり着く頃には、野菜炒めとご飯でサンドイッチされているため、水分を吸ってカツのサクサク感は全くない。しかし、野菜炒めのウスターソースが染み込んだカツはなかなか美味しかった。

 

 食べ進めていると、おかーに「どこから?糸満?」と聞かれた。関西からですというと、日に焼けてるから内地の人とは思わなかったと言われた。ここに来る前に4日間八重山諸島を巡っていた。5月の八重山はそれほど日差しが強かったようである。

 

 そうしていると客が1人、また1人と現れ始めた。地元の人であろうか、それぞれみそ汁、ゴーヤと頼んでいく。沖縄の食堂に行くとよく耳にするが、ウチナーンチュはゴーヤチャンプルーのことをゴーヤと言う。長いから省略してしまったのだろう。地元民の日常食といった感じである。

 

 このカツ丼もかなり量が多かった。45分ほど格闘しただろうか、ようやく食べ終わった。どうしてカツ丼がこんなことになってしまったのだろうか。考えを巡らしたがそれらしい答えには辿り着けない。カツ丼は野菜が取れないからおかずを一緒に出していたが、別々の皿に盛るのが面倒くさくなってぶっかけスタイルに移行した。勝手な想像である。琉球、日本、アメリカ、そしてまた日本へと様々な時代と文化の中で育まれてき感覚なのだろう。

 

 その後、沖縄のカツ丼について調べてみたが、カツの下に野菜炒めを敷き詰めるスタイルが一般的らしい。カツの上から野菜炒めをぶっかけるスタイルは少数派のようである。野菜と一緒にカツを卵でとじた店もある。しかし、センター食堂の野菜炒めの量は群を抜いて多い気がした。

 

 内地の人にとって沖縄の食堂は、お腹だけでなく好奇心も満たしてくれる場所だと思っている。今は沖縄にも大手の資本が流れ込み、個人経営の小さな食堂は少なくなってきているらしい。こういう文化は残っていってほしいなと感じる。

 

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店内にはメニューに並んで禁酒の文字

 

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センター食堂のかつ丼 かつはほとんど見えません

 

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糸満バスターミナル 年季が入ってます